パートナーがソファでぐったりしている。台所に立てばにおいで気持ち悪くなり、好きだったはずの食事にも手がつかない。となりで見ていて、「何かできることある?」と声をかける。返ってくるのは「大丈夫、ありがとう」。そのまま、結局なにもできずに一日が終わる。そんなもどかしさを抱えている人は、少なくないのではないでしょうか。
つわりは、本人にしかつらさが見えません。だから支える側は、何をどれだけやればいいのか、手がかりをつかみにくい。この記事は、妊娠している本人ではなく、その隣で支えるパートナーに向けて、今日から動ける具体的なことを整理します。

「何かできることある?」が、実はいちばん相手を疲れさせる
やさしさから出た「何かできることある?」という言葉が、じつは相手の負担になっていることがあります。
つわりで消耗している人に「何かできることある?」と聞くと、相手は「何がしてほしいかを考えて、それを言葉にして、指示を出す」という作業を引き受けることになります。気持ち悪くて頭が回らないときに、いちばんやりたくないのがこの段取りです。だから「大丈夫」と返ってくる。本当に大丈夫なのではなく、説明する体力がないことのほうが多いのだと思います。
つわりは、妊娠した人の大部分が経験するものです。多くは妊娠5〜6週ごろに始まり、12週ごろには落ち着いていくとされています(厚生労働省)。ただし、始まる時期も、つらさの重さも、いつ楽になるかも、人によって大きく違います。つまり「みんな通る道」でひとくくりにできるものではない、という前提から入るのが、支える側の第一歩です。
支える側にできる本質は、たったひとつだと思っています。聞く前に、知る。 相手に判断を投げ返すのではなく、こちらが状況を先に把握して、勝手に動く。その姿勢に切り替えるだけで、かけられる言葉も、取れる行動も変わっていきます。
つらさは波で来る。だから「昨日は平気だったのに」が通じない
つわりのやっかいなところは、症状に波があることです。朝はまったく動けなかったのに、夕方は少し食べられる。昨日は平気だった料理のにおいが、今日は耐えられない。この不規則さが、支える側の理解をいちばん難しくします。
「昨日は食べられたのに、なんで今日は?」という戸惑いは、つい口に出てしまいがちです。けれど本人にとって、その波は自分でもコントロールできないもの。責める意図がなくても、「昨日はできたよね」という言葉は、「本当はできるはずだ」という疑いとして受け取られてしまいます。
もうひとつ避けたいのが、無責任な励ましです。「気の持ちようだよ」「そのうち終わるから」「みんな乗り越えてる」。どれも本人を追い込む言葉になりかねません。終わりの時期は誰にも断言できませんし、気持ちで抑えられるものでもない。励ますより、しんどさをそのまま受け止めるほうが、たいてい相手は楽になります。
言葉だけでなく、ふだんの行動にも気をつけたいところがあります。
- においの強いものを、本人の近くで食べる
- 脱いだ服や食べたあとの食器を、そのままにする
- 自分だけ飲み会や趣味の予定を、これまでどおり入れる
どれも悪気はなくても、「自分だけがつらい状況に置かれている」と感じさせてしまいます。
つわりの多くは自然にやわらぎます。ただ、食べ物はおろか水も十分に飲めないほどになったら、「妊娠悪阻(にんしんおそ)」という病気です。厚生労働省の資料では、体重が1週間に2kg前後減ったときや、12週を過ぎても症状が残るときは、重症化のおそれがあるとされています。本人が「まだ大丈夫」と言っても、こうした様子があれば受診をすすめてください。がまんを続けず、かかっている産科へ早めに相談してください。判断に迷うときは、自治体の妊娠・出産相談窓口も使えます。
聞かずに動くための、五つの具体行動
では、具体的に何をするか。ポイントは、相手に決めさせない形で先回りすることです。以下は「これをやれば正解」というより、こちらから動ける入り口だと思ってください。
| 場面 | 支える側の具体行動 |
|---|---|
| におい・環境 | 生ゴミ出し・水回り・においの強い料理を引き取る。換気をこまめにし、部屋が蒸し暑くならないようにする |
| 食べもの | 本人が食べられるものを、少量ずつすぐ口にできるように常備する。「これ食べて」と勧めすぎない |
| 家事 | 「手伝う」ではなく、担当ごと引き取る。何を引き取ったかを口に出して伝えると、相手は考えなくてよくなる |
| 通院 | 妊婦健診に同行して、医師の説明を一緒に聞く。仕事の調整が必要なら「母健連絡カード」の存在を知っておく |
| 上の子 | 上の子がいる場合は、送り迎え・入浴・寝かしつけを引き取る。ここが最も体力を奪う場面 |
つわりは、空腹で吐き気が強くなることがほとんどで、少しずつこまめに食べるのが基本とされています。また、強いにおい、換気の悪さ、蒸し暑さ、騒音などで悪化しやすいとされています(厚生労働省)。表の「におい・環境」と「食べもの」は、ここから来ています。
とくに、においの出る家事を黙って引き取るのは効果が大きいと感じます。台所の生ゴミ、排水口、冷蔵庫のにおい。本人が近づくだけでつらい場所を、先にこちらが片づけておく。「ゴミ出しとくね」の一言だけで、相手は台所に立たなくてよくなります。
通院への関わり方も、妊娠期の早い段階で差が出るところです。健診で何を見ているのか、次に何を決めるのかを一緒に知っておくと、支える側の解像度が上がります。健診の中身については妊婦健診では何を見ているかにまとめました。
仕事を持つ人なら、つわりで勤務を調整するための「母健連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)」という仕組みもあります。医師が通勤の緩和や勤務時間の短縮などが必要だと判断したときに記入し、本人が会社に出して申し出るものです(厚生労働省)。
「見えないつらさ」を、少しだけ見えるようにする
ここまで書いてきたことは、要するに「相手の状態を知ろうとする」に尽きます。つわりの記録アプリを使う理由も、そこにあります。
ママレコにあるのは、妊娠週数のカウントダウンや、日付にひもづかないメモ機能です。本人が「今日は夕方だけ少し食べられた」「このにおいがだめだった」と短くメモしておけば、波のパターンがうっすら見えてきます。
それを支える側が見せてもらえば、「今日は朝がきつい日だな」と、聞かなくても察しやすくなる。言葉にする体力を相手に使わせずに、状況を共有するための小さな道具です。
妊婦健診の予定をカレンダーに入れておけば、同行の段取りもしやすくなります。そして妊娠がわかった今のうちに、アプリで役割を「パパ」に設定して使いはじめておきましょう。赤ちゃんが生まれてからの育児記録・成長記録の共有に、そのままつながっていきます。産後の分担についてはパパ育休を妊娠中から準備する話もあわせてどうぞ。

ママレコでパートナーと共有できるのは、生まれてからの育児記録と成長記録です。生理・基礎体温・妊娠の記録や、メモ、アイコン付きのプライベート予定は共有されません。妊娠中の体のことまで自動で相手に見えるわけではないので、メモは「本人が見せたいときに見せる」使い方になります。育児記録の共有そのものは無料です。
ママレコが表示する週数やパターンは、記録にもとづく目安であり、医療的な診断ではありません。気になる症状があるときは、自己判断せず産科などの医療機関にご相談ください。
察してあげられなくて、いい
つわりを支える話になると、つい「気持ちをわかってあげたい」という方向に力が入りがちです。けれど、本人にしか見えないつらさを、外から完全に理解するのは無理があります。だから、わかったつもりになるより、知ろうとして動くほうが、たぶん相手には届きます。
「何かできることある?」と聞く代わりに、においの出る家事を黙って引き取る。励ますより、しんどさをそのまま受け止める。それだけで、支えられている側の景色は少し変わるはずです。つわりは、ふたりで迎えた妊娠の、最初の分担なのだと思います。
参照
- 厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト「つわり(母性健康管理に関する用語辞典)」
- 厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト「働く女性のつわりについて(専門家コラム)」
- 厚生労働省「母性健康管理指導事項連絡カード」
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