妊婦健診で血圧をはかったあと、助産師さんの表情が少し変わって「今日は少し高いですね、次も見ていきましょう」と言われる。家に帰ってから、あの日は塩辛いものを食べたから、仕事で無理をしたから、と一つずつ思い返して、自分を責めてしまう。妊娠後期にむくみや頭痛が重なると、その不安はもっと大きくなるのではないでしょうか。
この記事では、妊娠高血圧症候群がどういうものかを整理します。血圧が高いと言われたときに家で何を見ればいいのか、そしてすぐ産院に連絡したほうがいいサインを、公的機関と学会の情報をもとにまとめました。先に一つだけ言っておきたいのは、この病気は「あなたの努力不足で起きるもの」ではない、ということです。

妊娠高血圧症候群とは、血圧が高いと言われた状態
妊娠高血圧症候群は、妊娠20週以降から産後12週までのあいだに血圧が高くなる状態をまとめた呼び名です(以前は「妊娠中毒症」と呼ばれていました)。日本産科婦人科学会の一般向け解説では、血圧が次の値になると、この診断がつくとされています。収縮期血圧(上の値)が140mmHg以上、または拡張期血圧(下の値)が90mmHg以上のときです。
数字だけ見ると急に不安になりますが、まず押さえておきたいのは、140/90は「ここから注意して見ていく」という目安の線だということです。健診で一度高く出たからといって、それだけで重い状態と決まるわけではありません。
| 血圧の目安 | どういう状態か |
|---|---|
| 140/90 mmHg 以上 | 妊娠高血圧症候群と診断される目安。安静にして経過を見る |
| 160/110 mmHg 以上 | 重症の目安。入院して管理することが多い |
| 診察室だけ高い(白衣高血圧) | 緊張で上がることがある。家庭での値も参考にする |
2018年に日本妊娠高血圧学会が分類を見直し、いまは血圧だけが上がる「妊娠高血圧」、たんぱく尿や臓器の症状を伴う「妊娠高血圧腎症」などに分けて考えられています。どの型かは血圧・尿・血液検査で医師が判断するので、ここでは「健診でこまめに見ていく病気なんだ」とだけ受け取ってもらえれば十分です。
なぜ起こるのか――食べ過ぎのせいではない
「妊娠後期に血圧を下げるには」と検索して、減塩レシピや生活改善の記事にたどり着いた方も多いと思います。けれど、妊娠高血圧症候群の起こり方を知ると、自分を責める必要はないことが見えてきます。
この病気のカギを握っているのは、赤ちゃんに酸素や栄養を送る胎盤だと考えられています。妊娠の早い時期、胎盤がつくられる過程で血管がうまく広がらない。その影響が、妊娠後期になって母体の血圧上昇という形であらわれる。そう説明されることが多いようです。つまり、きっかけは妊娠のかなり早い段階にあり、妊娠後期の食事や働きすぎだけで決まるものではないのです。
もちろん、なりやすさには個人差があります。日本産科婦人科学会は、なりやすい人としてこうした特徴を挙げています。
- もともと高血圧・糖尿病・腎臓の病気がある
- 肥満がある、40歳以上の妊娠
- 家族に高血圧の人がいる
- 双子などの多胎妊娠、初めての出産
- 前回の妊娠で妊娠高血圧症候群になった
ただ、これらに一つも当てはまらない人が発症することもあります。頻度は妊婦さんの10〜20人に1人ほどとされていて、決して珍しい病気ではありません。だからこそ、「なった=落ち度があった」ではなく、「妊娠という体の変化のなかで、誰にでも起こりうること」と受け止めてほしいと思います。
なぜ早めに見つけるほうがよいのか
血圧が上がった状態が続くと、お母さんの体にも赤ちゃんにも負担がかかります。日本産科婦人科学会は、赤ちゃん側の影響としてこうしたものを挙げています。
- 発育がゆっくりになる(胎児発育不全)
- おなかの中で状態が悪くなる(胎児機能不全)
- 胎盤が子宮からはがれてしまう(常位胎盤早期剥離)
ここで伝えたいのは、恐い話で不安をあおりたいからではありません。むしろ逆です。早く見つけて管理するほど、こうした事態は起こりにくくできる(必ず防げるという意味ではありません)。だからこそ、健診で血圧を見ていくことに意味があります。
「血圧が高いですね」という一言は、見放されたのではなく、これから一緒に見ていきましょうという合図だと受け取ってもらえればと思います。
自分でできること・できないこと
残念ながら、妊娠高血圧症候群を自分で薬のように「下げて治す」ことはできません。日本産科婦人科学会も、根本的な治療は妊娠を終える(出産する)ことで、血圧の薬は症状をやわらげる対症療法だと説明しています。だから、健診の予約を早めてもらったり、必要なら入院して管理したりと、医療側が主役になって進めていく病気です。
では家でできることは何もないかというと、そうではありません。できるのは「治す」ことではなく「見つける・伝える」ことです。
| 今日からできること | なぜ役立つか |
|---|---|
| 家で毎朝・毎晩、同じ条件で血圧をはかる | 診察室だけ高い白衣高血圧と区別でき、ふだんの値が分かる |
| はかった値と、むくみ・頭痛などの症状をメモする | 健診で見せれば、医師が経過を判断しやすい |
| 体重の増え方を記録する | 急な増加がむくみのサインになることがある |
| 無理をしすぎず、休めるときに横になる | 安静は血圧を上げにくくする(治療ではないが負担を減らす) |
食事についても、迷う方が多いところです。「極端な減塩をしたほうがいいのか」とよく聞かれます。けれど、産婦人科診療ガイドライン(産科編2023)のもとになった検討では、減塩の有益性も不利益もはっきりしなかったとされています。つまり、塩を極端に断てば防げる・治るというものではありません。
食事がつらくなるより、ふだんどおりバランスよく食べるほうが現実的だと、私は思います。具体的な食事の指導が必要なときは、担当の医師や栄養士に相談してください。
次のようなときは、次の健診を待たずに産院へ電話で相談してください。家ではかった血圧が160/110mmHg以上のとき。強い頭痛が続いたり、目がチカチカする・視界がかすむとき。みぞおちや右の上腹部が痛いとき。急にむくみがひどくなった・体重が急に増えたとき。胎動がいつもより少ないと感じるときも同じです。これらは重症化や前ぶれのサインとして知られています。自己判断で様子を見ず、まず電話で相談するのが安心だと思います。
ママレコでできること
血圧が高いと言われてから次の健診までの数日は、「この値は大丈夫なのかな」「あのむくみ、言い忘れた」と、ひとりで抱えやすい時間です。この不安は、数字と様子を書き留めて、健診で医師に見せられる形にしておくと、だいぶ軽くなります。
ママレコには血圧専用の記録はありませんが、メモに「朝の血圧/夜の血圧/むくみ・頭痛の有無」を日づけごとに残しておけます。健診の待ち時間に見返せば、「この3日はこうでした」と、記憶に頼らず正確に伝えられるはずです。
体重は妊娠中の体重グラフで見られます。横軸が妊娠週で、妊娠前のBMIから出した適正な増え方の範囲が帯で表示されるので、増え方の変化に気づきやすいと思います。次の健診や受診の予定はカレンダーの予定とリマインダーに入れておけば、「血圧を見せる日」を忘れずにすみます。

なお、血圧やむくみを書いたメモ、体重や妊娠の記録、カレンダーの予定は、どれも本人だけが見られるものです。パートナーと無料で共有できるのは育児・成長の記録で、妊娠にまつわるこれらのデータは共有されません。健診で見せる相手は、まず担当の医師です。
ママレコが表示する予測・判定は、記録にもとづく目安であり、医療的な診断ではありません。気になる症状があるときは、自己判断せず医療機関にご相談ください。
産後に血圧は戻る?
多くの場合、血圧は出産後にゆるやかに落ち着いていきます。ただし、産後の数日はまた上がることがあるため、退院してからも油断はできません。頭痛やむくみが続くときは、産後でも産院に相談してください。
もう一つ知っておきたいことがあります。妊娠高血圧症候群を経験した人は、将来、高血圧や心血管の病気になりやすい傾向があると報告されています。産婦人科診療ガイドライン(産科編2023)にも、こうした既往のある人へ長期の定期的な健康診断をすすめる記載が加わりました。
これは今すぐ怖がる話ではありません。「この妊娠をきっかけに、これから自分の体も年1回くらいは見ていこう」という、先々のための目安だと受け止めてもらえればと思います。
血圧が高いと言われた日は、きっと心細かったと思います。けれど、それはあなたの努力が足りなかったからではなく、体が出してくれた早めのサインです。はかって、書き留めて、健診で見せる。その小さな積み重ねが、いちばん確かな備えになります。妊娠週数の数え方や妊婦健診の流れは妊娠週数の数え方や妊婦健診でわかることでも整理しているので、あわせて読んでみてください。
参照
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会「妊娠高血圧症候群」
- 一般社団法人 日本妊娠高血圧学会
- 日本産婦人科医会「妊娠高血圧症候群の際の降圧剤の具体的な使用方法は?」
- 厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト(母性健康管理)」
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