妊婦健診で採血のあと、「少し貧血ぎみですね」と言われる。立ち上がったときにクラッとする日が増えた気もするし、言われてみれば階段で息が切れる。家に帰ってから、あの週は肉を食べていなかったとか、つわりでまともに食べられなかったとか、自分の食べ方を一つずつ思い返して落ち込んでしまう。そんな経験はないでしょうか。
この記事では、妊娠中の貧血がなぜ起きるのかを整理したうえで、鉄を増やす食べ物の選び方と、吸収をよくする組み合わせのコツをまとめます。あわせて、食事だけで足りないときにどうするか、どんなときに産院へ相談すればいいのかも、公的機関と学会の情報をもとに書きました。
先に一つだけ言っておくと、妊娠中の貧血は「あなたの食べ方が足りなかったから」とだけ言えるものではありません。

妊娠中の貧血は、食べ物だけのせいではない
結論から言うと、妊娠中の貧血は食べ方の不足や体質だけで起こるわけではありません。妊娠が進むと、赤ちゃんに酸素や栄養を届けるために血液の量そのものが大きく増えます。このとき、血液の液体の部分(血しょう)が赤血球より多く増えるので、血が薄まったような状態になります。検査の数値が下がるのは、ある程度は妊娠そのものによる自然な変化なのです。
そのうえで、赤ちゃんと胎盤をつくるために鉄の必要量も増えます。ふだんと同じ食べ方をしていると鉄が追いつかなくなりやすいのです。妊婦健診でみつかる貧血の多くは、鉄が足りないことで起こる鉄欠乏性貧血だとされています。
貧血かどうかは、採血でヘモグロビン(血液の中で酸素を運ぶ成分)の値を見て判断します。世界保健機関(WHO)は、妊婦の貧血をヘモグロビン11.0g/dL未満(またはヘマトクリット33%未満)と定義しました。妊娠していない成人女性の基準より低めなのは、さきほどの「血が薄まる」変化を見込んでいるからです。
貧血の診断や治療が必要かどうかは、ヘモグロビンの値だけでなく、ほかの検査やあなたの症状をあわせて医師が判断します。ここで挙げた数値は一般的な目安であり、自己判断の材料ではありません。
なぜ妊娠中期から貧血が増えるのか
「貧血は何週くらいから出るの?」という疑問をよく見かけます。はっきり何週からと線を引けるものではありませんが、血液の量が大きく増えてくるのは妊娠中期以降で、後期にかけて貧血を指摘される人が増えていきます。妊娠初期にはつわりで食事が偏り、そこから鉄が不足し始める人もいます。
ここで知っておきたいのは、数値が下がること自体をこわがりすぎなくていい、ということです。問題は「薄まった」こと以上に鉄が不足しているかどうかで、そこは食べ方と、必要に応じた鉄の補いでカバーしていけます。妊娠週数の数え方があいまいな人は、妊娠週数の数え方もあわせて読んでみてください。
鉄がどのくらい必要になるかは、時期によって変わります。下の表は、ふだん(月経のない時期)の推奨量に上乗せする量の目安です。中期・後期でぐっと増えるのがわかると思います。
| 時期 | ふだんに上乗せする鉄の量(1日・目安) |
|---|---|
| 妊娠初期 | +2.5mg |
| 妊娠中期・後期 | +8.5mg |
ふだん(月経のない時期)の推奨量は1日あたり6.5mgほどです。中期・後期はここに上乗せして、合計で15mg前後が目安になります(厚生労働省「日本人の食事摂取基準」)。数字だけ見ると大変そうですが、次に書く食べ方の工夫で近づけていけます。
鉄を増やす食べ物と、吸収を助ける組み合わせ
鉄は、含まれている食品の種類によって体への入りやすさが違います。ここを押さえると、「たくさん食べているのに増えない」を減らせます。
食品の鉄には、動物性食品に多いヘム鉄と、植物性食品などに多い非ヘム鉄があります。ヘム鉄のほうが吸収されやすく、非ヘム鉄は吸収率が低めです。どちらか一方に偏らず、両方を食事に散らすのが現実的です。
| 種類 | 多く含む食べ物 | 吸収のめやす |
|---|---|---|
| ヘム鉄(動物性) | 赤身の肉、かつお・まぐろなどの赤身魚、レバー | 比較的吸収されやすい(およそ10〜30%) |
| 非ヘム鉄(植物性ほか) | ほうれん草・小松菜などの青菜、大豆製品、ひじき、卵 | 吸収されにくい(およそ1〜8%) |
吸収率の低い非ヘム鉄は、組み合わせでカバーできます。ビタミンCは鉄を吸収されやすい形に変えるので、青菜や大豆製品を食べるときに、果物やブロッコリー、ピーマンなどを一緒にとると入りやすくなります。逆に、緑茶やコーヒー、紅茶に多いタンニンは鉄の吸収を妨げるので、食事の前後は少し時間をあけて、麦茶や水にしておくと無難です。
つわりやおやつで無理なく鉄をとる
つわりで食事が進まない時期は、「まず食べられるものを食べる」が最優先で、鉄のことは体調が戻ってからで構わないと思います。食べられるようになってきたら、一度にたくさんではなく、少量を回数で分けるほうが続きます。
間食で補うのも手です。おやつに鉄をとりたいときは、小魚やナッツ、プルーンなどのドライフルーツ、きなこを使ったものなどが取り入れやすいです。甘いものが続くときも、鉄入りと書かれたお菓子や飲み物を一つはさむだけで違ってきます。つわりの波との付き合い方はつわりのピークはいつまで続くのかでもまとめています。
レバーは鉄が豊富ですが、ビタミンAも多く含みます。妊娠初期にビタミンAをとりすぎると赤ちゃんに影響する可能性が指摘されているため、毎日大量に食べるのは避け、ときどき少量にとどめるのが安心です。
食事だけで足りないとき——鉄剤は「負け」ではない
食べ方を工夫しても、必要量が大きく増える妊娠中は、食事だけでは追いつかないこともあります。そのときに医師から鉄剤(飲み薬)が処方されることがありますが、これは「食事でがんばれなかった証拠」ではありません。妊娠という体の変化に合わせて、足りない分を確実に補うための、ごく一般的な方法です。
鉄剤を飲むと、人によっては吐き気や胃のむかつき、便秘が出ることがあります。つらいときは我慢せず、飲む量やタイミング、種類を相談すると調整できることが多いです。飲み忘れを防ぎたいときは、スマホのリマインダーに頼ってしまうのもおすすめです。
次のようなときは、健診を待たずに産院へ相談してください。立ちくらみやふらつきが強くて転びそうになる。動悸や息切れが安静にしていても続く。顔色が悪いと周りに言われる。貧血の程度によっては、食事や飲み薬だけでなく別の対応が必要なこともあります。症状の感じ方は人それぞれなので、気になるときは自己判断で様子を見ないことが大切です。
記録が、健診での会話を変える
貧血は、一度の採血の数値だけでなく、ふだんの食べ方や体調とあわせて見ることで、健診での相談がしやすくなります。とはいえ、健診のときに「この2週間どうでしたか」と聞かれても、細かいことまでは思い出せないものではないでしょうか。私も、その場になると肝心なことを忘れてしまいます。
ママレコには、貧血やヘモグロビンの数値そのものを記録する専用の機能はありません。そのかわり、メモに採血の結果や、食べられたもの・食べられなかった日、ふらつきがあった日、健診で聞きたいことを書きためておけます。
健診のときにそのまま見せれば、「つわりがひどかった週があって」「鉄剤を飲むと気持ち悪くて」といったことを、言い忘れずに伝えられます。メモは本人だけのもので、パートナーには共有されません。

妊娠週数や出産予定日、体重の記録も一緒に管理できます。体重のグラフは横軸が妊娠週で、妊娠前の体格から計算した適正な増え方の範囲が黄色い帯で出るので、栄養の相談のときの材料になります。
健診や鉄剤の予定はカレンダーに入れ、リマインダーも設定できます。これらの予定とメモは本人だけに表示されるもの。パートナーと無料で共有できるのは育児・成長の記録で、生理や基礎体温、妊娠の記録は共有されません。
ママレコが表示する予測・判定は、記録にもとづく目安であり、医療的な診断ではありません。気になる症状があるときは、自己判断せず医療機関にご相談ください。
まとめ
採血で「貧血ぎみ」と言われた日は、きっと心細かったと思います。けれど、それはあなたの食べ方が足りなかったからというより、赤ちゃんのために血液が増えていく体の変化が大きく関わっています。
ヘム鉄と非ヘム鉄を両方、ビタミンCと一緒に、無理のない量から。足りなければ鉄剤に頼っていい。そして、食べたものや体調を書きとめて健診で見せる。この小さな積み重ねが、次の採血までの不安を少しだけ軽くしてくれるはずです。妊婦健診で何をみているのかは妊婦健診でわかることでも整理しています。
参照
- 世界保健機関(WHO)「Haemoglobin concentrations for the diagnosis of anaemia」
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
- MSDマニュアル家庭版「妊娠中の貧血」
- 健康長寿ネット(長寿科学振興財団)「ミネラル成分の鉄分の働きと1日の摂取量」
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